翌日の朝になっても白蘭様の姿は見当たらず、私が眠りについている間にも、お帰りになられた形跡はありませんでした。やはりあの女性と一夜を過ごしていたのでしょうか。少し腫れ上がった瞼を抑え、キングサイズのベッドから体を起こしました。窓の隙間から眩しく差し込む光が妙にすがすがしく思えました。それは私が何かを吹っ切った証であり、何かを決意した証でもありました。

コンコンと扉をノックする音が聞こえました。その音に返事をすれば、聞こえてきたのはレオナルドさんの声でした。おはようございますと、まるで昨日の出来事など知りもしないといったようなレオナルドさんの表情に、心の中で安堵しました。昨日のような同情の眼差しなど、私には不必要なものだからです。

けれど、おはようございますと挨拶を返せば、レオナルドさんは歯切れの悪い口調で、白蘭様が今日もお戻りになられないという用件を告げました。それから、明日の午後9時頃に白蘭様がお戻りになられるので、必ずこの部屋にいるようにとのことを私に伝えたのです。白蘭様の伝言は、いよいよその時が来たことを知らせるかのような言葉でした。

レオナルドさんが退室し、私は一人、部屋に取り残されました。少しばかり脈拍が上がっていました。今更私が足掻いてみたところで状況は変わりはしないというのに。ただその時を待つことしか出来ないというのに。私は白蘭様に忠誠を誓った身です。白蘭様の言葉を受け入れるしか道はありません。みっともない最後は、白蘭様に泣きつくような最後は許されません。ならばせめて美しい最後を遂げます。そう固く心に誓いました。




(雨は小雨へと変化した)